「今は私の愛車よ」
「このエボ9は熊九保さんが乗っていたけど、今はお姉ちゃんが乗っているんだ。
熊九保さんが乗っていた頃はバリバリに改造されていたけどね」
「あの頃の熊九保はんは4WD改FRのドライバーのイメージが強かったで」
今もFRのままであり、エンジンも縦置きだ。
ちなみにクマさんの初めての愛車はGDB中期型インプレッサWRXSTiだ。
そのGDBはエボ9同様に他人の手へ渡され、クマさんがC33に乗り換えた理由は「旧車でバトルしたい、旧車の実力を現代の人に知らしめたい」だ。
なつかしの愛車に対して、クマさんはあることを考える。
「さて、今夜は末永のお姉さんの車両でドリフトすっべ!」
「末永の姉ちゃん、いいでしょう? 他人がどう運転するか見たいでしょ? 助手席に乗ってよ、お・ね・が・い」
人の体を触りながら、そう依頼した。
「いいわよ。
あと、体触るのはやめてよね。
セクハラよ!」
許可されたけど、あの行為はやりすぎじゃ……。
「じゃあ熊九保さんがお姉ちゃんのクルマで走るなら、私たちは着いて行こうかな。
オオサキさんとくにちゃん、川畑さんも乗ってね!」
タカさんは助手席に座り、おれと川さんは後部座席に座る。
「よし、出発すっべ!」
「私も出発しよう!」
RX-8がコースに出たのは、エボ9がコースに出て10秒後のことだった。
「後ろから何か車の音が聞こえてくるよ?」
「コンプレッサーみたいな音が聞こえてくるね、マミさん」
ちなみにタカさんは末永の妹さんのことを「マミさん」と呼んでいる。
「道を譲った方がいいよ。相手の方が速いから」
後ろのクルマの姿が大きくなっていく。
それをリアウインドウからおれは見る。
「オレンジのアルテッツァ――あの車は葛西モミジ!
葛西サクラの妹やで!」
「葛西モミジ――葛西モミジという走り屋と言えば、こないだEarthWindFireを倒した走り屋だよね。
こんなに強力な走り屋相手には譲るしかないね!」
後ろのアルテッツァが葛西モミジだと知った末永(妹)はRX-8にバザードを出して道を譲る。
前へ出たアルテッツァはスーパーチャージャーの音を奏でながら走っていく。
「お姉ちゃんの車を運転する熊九保さん――後ろに私を追い越したアルテッツァを来ることを知っているんだろうか?」
アルテッツァに道を譲ると、姉の車を運転するクマさんのことで心配する。
RX-8より向こうにいるクマさんは最初の難関、左ヘアピンをブレーキングドリフトで抜けて、続いて幅の広い右コーナーをサイドブレーキを使ったドリフトで抜け、直線に入っていく。
その時、後ろから末永の妹さんが乗るRX-8が聞いたコンプレッサー音がクマさんの運転するエボ9にも聞こえてくる。
「熊久保、何か聞こえてくるわ!」
「あれは――モミジのアルテッツァだべ!」
バックミラーから熊九保は後ろのクルマを見る!
後ろのクルマはEVO9と同じ色のセダン――モミジのアルテッツァだった!
「どうする?
譲るの?
相手は速いから譲った方がいいかもしれないわ――」
「あいつにおらのドリフト技術を見せてやっぺ!
譲らねーべ!」
「バカ!
相手は強いわよ!」
「なにかたってんだ!
おらの覚醒技の能力を抜けるたびにハンドリングが良くねるんだべ!」
クマさんは末永の姉さんの忠告を無視した。
そんなの無茶だよ、クマさん!
「覚醒技?
そんなの知らないわ!
なんなのよ!」
「まぁ見たほうがいいっべ」
末永の姉さんはクマさんとアルテッツァのオーラが見えず、覚醒技を持っていないようだ。
直線が終わり、右、左、右の3連続ヘアピンに突入する。
アルテッツァから逃げてやろうと軽くブレーキを踏み、ドリフトで突っ込んでいった。
一方、後ろのモミジのアルテッツァも右ヘアピンに入る。
クマさんの運転するエボ9より鋭い突っ込むドリフトで荷重移動させながらヘアピンに入っていく。
「相手速えーべ!
おらの覚醒技の突っ込みより速い!」
「だから言ったでしょ!
相手は強いって!」
エボ9はクマさんの持つ覚醒技の能力でコーナーを抜けるたびにコーナリング性能を極めていくものの、クマさんの腕ではアルテッツァの突っ込み性能には敵わなかった。
3連続ヘアピンが終わると直線を挟み、左U字ヘアピンへ突入する。
エボ9は抜ければ抜けるほど、旋回性能が上がっていく!
ただしそれでも後ろのアルテッツァのコーナリングが速かった。
U字ヘアピンの後はまた直線を挟んで、S字ヘアピン、右ヘアピンに入る。
エボ9の突っ込み性能は上がっていくが、アルテッツァの突っ込みにはどうあがいても勝てず、接触寸前のテール・トゥー・ノーズの差に縮まっていく。
そして次の左U字ヘアピン、
「なかなかの突っ込みを見せるね、前のエボ9。
けどボクには勝てないね、ドリフトできても馬鹿は馬鹿。
次のヘアピンで追い抜いてやる!」
ここで宣言する!
「<コンパクト・メテオ2>!
バカバカバカバカバカバカバカバカバカバカァ、バカはバカッ!」
<コンパクト・メテオ>より突っ込みを重視した<コンパクト・メテオ2>で攻めるモミジは切り刻むようなスライドをしながらエボ9を追い抜く!
「くそ!
抜かれちまっただ!」
「もうやめたほうがいいわ!
葛西モミジのアルテッツァには勝てないのよ!」
「いや、このクルマはランエボだべ!
ランエボとかたれば立ち上がり勝負だあ~!
立ち上がり勝負で勝負すっぺ!」
抜かれた後は第1高速セクション。
直線でアルテッツァに追いつこうとしたものの、
「無理よ!
このエボ9はノーマルの280馬力だわ!
相手は310馬力、立ち上がりでは3姉妹最弱だと聞いたけど、離されて負けているわ! このエボでは直線で戦えるわけないでしょッ!?
FRにされて、しかもノーマルなのよ!
4WDなら立ち上がりで勝てるかもしれないけど――」
立ち上がりでも敗北する。
さらには新たな罠を受ける!
「く!
ブレーキだべ!
危ねー!」
「噂で聞いたけど、堀内のV36を倒した技だわ!」
前のアルテッツァは直線にも関わらずブレーキを踏んできた。
フェイントだ。
「くそ!
ずうたいが勝手に――動くべ!」
クマさんは足が勝手にアクセルを離してブレーキを踏んで一瞬だけ止まる!
「今使った技はジーニアス橙(オレンジ)流<ザ・罠(トラップ)>だよ。
この技を喰らったらボクを追いかけることができないぜ」
先頭のアルテッツァにはエボ9の眼から消えていった。
「だから、譲った方が良かったのよ!
勝ち目なかったじゃあないの!」
「かんにんない、相手にわだすのドリフトの実力を見せたかったべ――」
「ったく、熊久保ったら!」
助手席の末永のお姉さんは道を譲らなかったクマさんに注意した。
ちゃっと言う事を聞けば良かったのになあ……。
停止したエボ9の前に末永(妹)の運転するRX-8が到着する。
「どうしたの熊久保さん?
お姉ちゃんの車を故障させたの?」
さっきまでの出来事クマさんは末永の妹さんに話した。
「へ!? あの私のRX-8を追い抜いたアルテッツァに勝負挑んだの?」
「熊久保は勝てないのに挑んだのよ!
熊久保はDRIFT甲子園昨年度チャンピオンという称号を持っているから調子乗って!」
モミジに勝負を挑んだことを末永のお姉さんは許せなかった。
「まぁまぁ、戸沢との戦いもそうだったよ」
「あの頃は相手はFFだとなめとって、うちらは止めようとしたんやけどな――」
「戸沢と言えば榛名ダウンヒル最速。
FFとはいえ、相手は強敵だから勝負はやめろと言ったけど、結局勝負挑んで負けてしまったよ――。
FFの速さを知らなかったからね」
「熊九保はFR至上主義だからFFをすぐバカにするという特徴を持っていたのよ。
ただしFR至上主義だけどWRCやかつて乗っていたことの影響でランエボやWRXが好きだけどね――。
FFを馬鹿にするのはそのせいよ。
ただし戸沢に負けたのか、FFに対する考え方を軟化させたそうよ」
「さぁ帰りましょう。私は熊九保を乗せるわ」
エボ9に末永のお姉さんとクマさん
RX-8には末永の妹さんとおれ、タカさんと川さんが乗り、帰路へ行った。
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